様々な作風のオリジナル小説が置いてあります。また、小説の書き方についても載せています。
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Posted by 上の空 一助
 
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短編のご紹介
 通りすがりの方、ようこそいらっしゃいませ。お馴染みさん本当にありがとうございます。
 『題名』をクリックすると作品に飛ぶことが出来ます。☆の数はオススメ度で、五つが最高です。
 だいたい下の作品ほど古いものです。ショートショートはこちらから

『世界樹』 ☆☆☆☆
詩文小説。世界樹、というお題で書いた掌編。新年明けましておめでとうございます。

『鏡のウラ』 ☆☆☆
エンタメ。魔王ってお題で2000文字以内に書いた物を手直しして、2000字をオーバーしたもの。

『福引き昇天街』 ☆☆☆☆
普通の読み物。ユダヤの陰謀論などはジョークなので、ご愛嬌でございます。

『あお信号』 ☆☆☆☆
現代劇。さいはてHOSPITALというフリーゲームが面白くて、ついつい書いてしまいました。

『サカナ』 ☆☆☆
軽めの狂気。

『アンテナより、君へ』(おすすめ度はひとりよがりなので外しました。笑)
趣味の作品。なんとも無責任な話になりました。少女のラジオ放送をお伝えいたします。

『ゴールデンハーベスト』 ☆☆
昔のどこかの日常。

『歯車の王』 ☆☆
シリアス。

『三度目の十七時・五十八分・刹那秒』 ☆☆☆☆☆
王道です。三度目の◯◯、というタイトルで二千文字以内で書くという条件の下に書いた短編。

『The Ninja』 ☆☆
ギャグ。ツイッターで頭が暴走して出来上がった作品。抹消したい。

『雨に還る』 ☆☆☆☆
詩文小説。というより詩文。割と好き勝手に書いてみました。

『イビル・イニティウム』 ☆☆☆☆
偽神話。神の方が悪魔より、よっぽど人を殺している?

『ブラックバード』 ☆☆☆☆☆
至近未来。

『ポルカ』 ☆☆☆
児童文学っぽい雰囲気。

『開かれた羅針盤』 ☆☆☆
王道。男の子向け。C:/Windows/Media/onestop.mid を聴いてたらこんなん出来上がりました。

『雨粒のジュブナイル』 ☆☆☆☆
恋愛。

『怪盗・丑の刻参り』 ☆☆☆
ドタバタギャグ。

『椅子取り』 ☆☆☆
ダーク。貴方もきっとその椅子に座っています。

『ひとのかたち』 ☆☆☆
詩文小説。音楽に影響されて作られた短編です。『Dolls リン』でぐぐってくださいな。

『剣閃花』 ☆☆☆☆☆
シリアス、バトル。重厚な話。戦闘シーンもありますよ。

『私』 ☆☆☆
前向きなダーク。誰しも感じる壁のようなものですか。

『何よりも輝くもの』 ☆☆☆☆☆
王道です。

『何処にでもある始まりの話』 ☆
退屈な始まりの話。何よりも輝くものへと続いています。ブログに掲載してある中で一番古い話。

『顔』 ☆☆☆ (暴力的な表現があります)
バイオレンス、ダーク。ひどい話です。気の弱い方にはおすすめできません。

『安らぎの家』 ☆☆☆☆
摩訶不思議。不思議な家のお話。

『月明かり』 ☆☆☆
童話。幻惑的な作品。



『光ヶ丘学園高等部 小説同好会』 12年12月08日更新
小説を書かない小説同好会によるおバカな日常。シリーズ短編集。一つ一つ完結してます。


 もしも宜しかったら拍手等でコメントを残して頂けると嬉しいです。励みになります!
 また、コメントが来ていましたら、一週間以内に返信をさせていただきます!

 基本的に拍手レスで見分けがつけやすいように日時と名前を書き込んでいくので、名前を出されるのが嫌な方は、名前欄を空白にしていただけるとありがたいです。



     ※     ※     ※



私の知っている範囲で、小説の技法を載せてみようと思いましたので、興味のある方はどうぞ。
13年3月5日、雑記更新

『小説の書き方 目次』


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Posted by 上の空 一助
comment:15   trackback:1
[目次]  thema:自作小説 - genre:小説・文学
『世界樹』
 昔、人知れずに恋をした。
 私が好きになった人は、流し目の美しい日本的な少年だった。
 黒髪に制帽が良く似合った。学生服の長いコートから覗く細い指に見とれた。時折見せる微笑んだ顔は輝くようだった。
 その人が笑えば私も笑う。その人が悲しめば私も泣く。
 彼と一緒に居られる時間とは天国にて過ごすもののようで、彼と一緒に笑える瞬間とは幸福そのものだった。
 私の人生が、彼で満たされていく。
 ただ足りなかったものと言えば、私の勇気だけ。

 女学校の外れにある木に、人知れずに名前を彫った。
 二人の名前を並べて書いて、相合傘を差した。
 彼に想いを告げられない私に唯一できる告白が、それだった。
 情けなさと愛しさの入り混じった目で、私はいつまでも、いつまでも相合傘を差した二人の名前を眺めていた。
 私の恋に、花が咲きますように。
 私の恋が、実をつけますように。
 私と彼が、幸せになれますように。
 いつまでも。
 いつまでも……。

 その花が咲くこともなく、散ってしまったのは数年後のことだった。
 学徒兵として徴兵された彼が、僅かな骨となって戻って来たのを、私は彼の家にて見た。
 白い、白い、小さな骨に、雨粒が落ちた。
 それが私の瞳から零れ落ちる涙であったのに気がついた時には、私は泣き崩れていた。
 私は、死んでしまいたかった。
 私の中には彼しかいないのに。
 その彼が永久に失われてしまったのだ。
 もう、帰りはしない。
 二度とは帰らない。



……いいや。



 私は、そうしてあの木の前に立っていた。
 相合傘を差した木に、あの日と変わらぬように立ち続ける木の前に。
 木の葉が、穏やかな風に揺れて青空に輝いていた。
 私の物語は、ここで終わる。
 遺書は書いた。
 この木の下に、埋めてもらえるように。
 薬を飲んで、木に背中をもたれかけると、不思議とその木は暖かい気がした。
 私の世界とは彼だ。
 そして、彼との想い出が一番残るこの木の下で。
 私は永遠の眠りにつく。
 世界樹の木陰で。



Posted by 上の空 一助
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[短編]  thema:自作小説 - genre:小説・文学
『鏡のウラ』
 午前二時に鏡を覗き込むと、そこに魔王がいる。
 いつからだったろうか、私は鏡の中に魔王が居ることに気がついた。魔王というのは物の例えで、正確に言えば、口元は笑っているのに、凍りついたような笑わない目で私を覗き返す、もう一人の私がいるのだ。私ではない――ワタシが。

 毎朝、私は自分の部屋のベッドで目覚めると、お母さんからもらった化粧台に据え付けられている鏡の前で、ボサーっと学校に行く準備をする。
 ぼさぼさで長めの黒髪、だるそうな目。テキトーに付けているヘアピンに、口紅を引いたことの無い唇。これが鏡の中に写っている私――明日原笑子。
 化粧の仕方を教えてもらう前にお母さんは死んでしまった。化粧台が部屋にあるにも関わらず、私は興味が無いのでオシャレに疎い。制服って便利。みんな一緒くたの格好になってくれるから、流行りのファッションなんてものを気にせずに済む。
 休日、友達とカラオケに行ったりすると、みんな最初は「ゲッ」って言葉が喉につかえるような顔をするけれど。ファッションセンスが無いどころか、氷河期の極寒の大地くらいに人を試しているのは痛いくらいに自覚している。幼馴染みで悪友のコースケでさえ、「その服は無いだろ」と苦笑することもしばしばだ。

 それはともかく、魔王。
 『魔王』なんて大袈裟なアダ名を付けたけど、あながち間違っていないんじゃないかと思う。
 鏡の中には魔王が住んでいる。
 私じゃない、私にそっくりな魔王は――どうしても私だとは思えない彼女は、真夜中に現れる。何も語らずに私を見ている。ただ、底冷えのする瞳で――。
 何を伝えたいのか、何を言いたいのか分からない。
 不安になってコースケに相談してみたけれど、「俺がカウンセラーになってやろう。時給千二百円でどうだ?」なんて言われてむかついたので、携帯の着メロをドリフのオチに変えてやった。授業中に鳴りだして教室が爆笑の渦に包まれた。いい気味だ。

 でも、不思議なのは……。
 午前二時になると、何故か私は鏡を覗き込んでしまう。まるで何かに魅入られたように、だ。
 そんな生活が三ヶ月続いたある日、魔王は、語りかけてきた。

「いつまで嘘をつくの?」
 声が聞こえてきたが、部屋を見回してみても、辺りには誰もいない。
「いつまで、嘘をつき続けるつもりなの?」
 目の前の鏡から――魔王の淀みなく動く口から、楽しそうな問いが聞こえてきた時――私は、戦慄して尋ね返した。
「……あなた、誰?」
「私はウラ」
「なんで、鏡が喋るの?」
「笑子(エミコ)。貴方だって喋れるじゃない」
「……嘘って、何?」
「あら、自分についた嘘にも気づかないの?」
「なんなのよ?」
「好きなんでしょ?」
「……誰をよ?」
 ウラは両手を広げて、世界を抱くようなその格好で私に告げる。
「貴方の望みを叶えてあげる」

「私は――鏡のウラ」

※     ※     ※

 一週間後、そこにコースケと手を繋いで歩く笑子の姿があった。映画館に行って、公園の噴水傍のベンチに座って、肩を寄せ合ってみたりなんてして。蝶の羽のようにひらひらとした青いショートスカートに、淡い水色のブラウスが、笑子の華奢な体にとてもよく似合っていた。
 夕方、別れ際に唇と唇を重ねた。コースケは恥ずかしくなったのか、笑子から顔をそっぽ向ける。その仕草に、笑子はおかしそうに笑う。
「……じゃ、またな」
「うん」
 去っていくコースケを、笑子は微笑んで見つめていた。氷のように冷たい、笑わない目で。

 家の自室に帰ってきた笑子は、バックル付きの鞄と携帯電話をベッドに放り投げた。幸せそうに笑う。
「楽しいわね」
 壁にかけられた時計の針は午前二時を指している。部屋に置いてあった化粧台から、泣きそうな声が漏れた。
「……返して」
 笑子は化粧台に向きあう。鏡の中で、もう一人の笑子が膝をついて泣き崩れていた。
 笑子は笑いながら尋ね返す。
「返す? 何を?」
「――私の体を返して!」
 鏡の前に立つ笑子は――ウラは氷のように笑う。
「自分の気持ちにすら正直になれなかった貴方が、今更?」
「――返してよ……」
「飽きたら返してあげる」
「嫌、今すぐに」
「大好きな人が、他の女に取られるのは辛い?」
「…………」
「でも、残念でした。私は貴方なの。貴方は私なの。自分から何を取り返そうって言うの?」
「……違う」
 ウラは、笑子が喋るのを静かに待っていた。
 鏡の中の笑子は涙を払って立ち上がる。両の拳がわなわなと震えていた。
「貴方は、コースケのことを想ってなんていない。私は、私は、」
 化粧台が独りでに震えだす。

「――世界中の誰よりも、コースケのことが好き」

 ピシリと音がして、鏡にヒビが入った。
 ウラの楽しそうな声が響く。
「よく言えました」

※     ※     ※

 いつの間にか、笑子は体中の力が抜けたままで自分の部屋に座っていた。胸が、熱い。慌ててベッドの枕元に手を伸ばし、そこにあった携帯電話をかける。
「はい、もしもし?」
 やがて聞こえてきた声を聞いて、涙が漏れる。
「……コースケ」
「……笑子か? どうした?」
「……好きだよ」
 笑子は、涙をぽろぽろと零しながら、初めての告白をした。



Posted by 上の空 一助
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[短編]  thema:自作小説 - genre:小説・文学
『福引き昇天街』
 この街では福引きが大ブームである。どれくらいブームなのかって言うと、親を質に入れてでも福引きを引く為の券を買い求める連中が居るほどだ。福引券をもらう為に必要な商店街の品物など、とうの昔に売り切れた。
 今日も商店街の真ん中にドンと置かれた金色のガラポンが光っている。取っ手を握って、くるくる回すと中から小さな白い玉や赤い玉とかが出てくるアレだ。そのガラポンの取っ手を殺気立って握っている男が居る。
 当たれよ、当たれよ、当たれよ、当たれよ、当たれよ、なんて危ない口調で繰り返し呟いている。その瞳はもうガラポン以外に何も見えていない様子で、寝ていないのか充血して血走っていた。

 ガラガラ ガラガラ ガラガラ

 ガラポンがくるくる回る。くるくると回る。どこまでもくるくる。
 世界が上になって下になって、くるくると回るが、いったいどっちが上でどっちが下だったろう。男の瞳に映る景色はそのように回っていた。男の世界が回っている。
 そしてガラポンの玉が出る前に、彼は緊張や疲労や恐怖や期待が入り交じって、ぷちんと何かが切れてしまった。
 ばたり、と音がして、男は大地に倒れていた。
 ガラポンの動きも止まり、やがて白い玉が乾いた音と共に受け皿の上を転がる。
「十等、ハズレ。はい、ティッシュ」
 倒れた男の胸の上にポケットティッシュが投げ渡されて、そして男は控えていた黒服の男性達に両手、両足を担がれていずこともなく運ばれていく。
 男の運ばれていく先は街の郊外だ。そして、建物の果てる向こう、地平線まで、ずらりと人が並んでいた。その全員が、商店街の福引きを引く為に並んでいるのだった。

※     ※     ※

 九等『人を一人殺せる権利』
 八等『不老不死の妙薬』
 七等『死ぬまで遊んで暮らせる金』
 六等『アメリカ』
 五等『どんな異性であろうと落とせるオクスリ』
 四等『Google入社資格』
 三等『ユダヤ財閥の服従』
 二等『世界盟主の座』
 一等『☆ひ・み・つ☆』

※     ※     ※

 ガラポンのすぐ傍に置いてある掲示板には、そうでかでかと書かれた張り紙がある。いや、そんな景品はあり得ないだろうと思われる方もいるかと思うのだが、つい先日六等『アメリカ』を当てた人間に、本当に南北アメリカ大陸の全ての国の首脳達が従うようになってしまったのである。その日はエイプリルフールでも何でもなかった。アメリカとだけ書かれていたが、アメリカ一国ではなく大陸がプレゼントされてしまったのであった。何とも荒唐無稽なニュースは世界を駆け巡り、ありとあらゆる人々がこの商店街の魔法の福引きに夢中になった。四等を当てた男がマスコミのライブカメラに映った際、彼は膝をつき、両手を天にあらん限り伸ばしてこう叫んだ。
「何で五等じゃないんだ!」
 彼は今、Googleの研修を受ける為にGoogle本社に行っている。福引きを引くライバルが減ったことに歓喜する者もいれば、四等を先に当てられてしまった為に泣いている者もいた。
 今、掲示板の八等、七等、六等、四等の欄は、黒いインクペンで塗りつぶされている。当たった者が出た為である。全て一名様限りなのであった。

 ガラガラ ガラガラ ガラガラ……

 老若男女問わず、数多くの人間たちが、昼夜を問わず、夕陽の中で、朝焼けの中でガラポンを回していく。そしてその九割九分九厘以上の者達が十等、すなわちハズレを引いては、全てを失ったような顔をして帰っていくのだった。
 九等の『人を一人殺せる権利』が当たった男は、マスコミのカメラに向かって笑顔でこう応えた。
「ちょうど一人ぶっ殺したい奴がいましてね、あれ? これって必ず殺せるんですよね? 相手が反抗するなんて、太っ腹なこの福引きじゃありえませんものね。いや、楽しみだな、どういう殺し方があるのか、どうやったら相手が限りなく苦しみながら死ぬのか書店で調べて――」
 多くのマスコミがカメラを下げて、ライブ映像と音声を中断させたが、男はそれにも気づかない様子で喋り続けていた。
 三等『ユダヤ財閥の服従』を当てた女は歓喜して小躍りしながらカメラに向かってこう尋ねた。
「キャーッ、三等って何よ、どんなことが出来るの? ねえ、教えてよ、教えて?」
 感極まる様子だったが、肝心のユダヤ財閥がどのようなものであるのかは知らないようであった。後日、彼女の下に六等を当てた男を含むアメリカ全土がひれ伏した。
 五等『どんな異性であろうと落とせるオクスリ』を当てた十歳の少年は、恥ずかしそうにはにかみながらカメラのフラッシュに物怖じせずインタビューを受けた。
「将来のことをよく考えて、お互いの家族が納得できる形で使いたいです」
 世界中の多くの人が少年の可愛らしい笑顔を見て、貴方には最も必要の無い賞与であると考えたと言う。
 そして二等の『世界盟主の座』を当てた老人が一言呟いた。
「世界よ、平和を尊び、争いを止めよ」
 世界から戦争が無くなった。

 しかし、世界からこの魔法のガラポンだけは無くならなかったのである。
 人々の心に根付いた戦争さえ消し去ってしまったガラポン。
 未だに一等だけが出ていない。
 その内容は何なのか、いったいその先に何が待っているのか。
 多くの人がこう思っていた。

「全知全能の神になれるに違いない」

 昨日も、一昨日も、そうしてガラポンは回っていた。
 そして今日もガラガラ 明日もガラガラ

 ガラガラ ガラガラ ガラガラ……

 ガラポンは回った。



 そして何十年が経ったろう。
 この魔法のガラポンは、ようやく世界中の人々の話題にのぼることが無くなった。
 一等が出ないまま、そんなものは最初から無かったかのように人々は忘れ去って、今は商店街の倉庫の片隅で、ひっそりと眠っている。
 実はこのガラポン、商店街の人々が用意したものではない。というより、人間の理解を越えているシロモノであるので、商店街の人々が作ったのだとしたらオオゴトである。
 とある日の朝、商店街の理事長が鳥の鳴き声で目を覚ますと、ベッドの脇に置いてあったのがこのガラポンだったのだそうな。そして半ば冗談のように添えられていた紙に書いてあったのが、掲示板に貼られていた当たりの各等。ユーモア精神あふれる理事長が、ジョークのつもりで強行した福引きで、一番目に六等を引いた男が本当にアメリカを手に入れてしまったのでシャレにならなくなった。
 そんな経緯もあったが、何とも面白いイベントだった。何より二等を引いてくれた老人が半ば神のように聡明な人間であったので、彼が生きていたその後十数年は、世界中が幸せに包まれていた。
 彼が死んだら世界盟主の座なんて無かったことになってしまったし、当たり前のように争いごとが起こること起こること。商店街の理事長もすっかり老け込んだ。

 理事長は毎年魔法のガラポンを使った福引きを行うようにしたが、あれから何十年も経っているのに、ついぞ一等が出ない。今年も倉庫から、埃をかぶったガラポンを出して、商店街の真ん中に据えておく。
 一等が全く出ないものだから風評被害が酷かった。
「一等を抜いたんでしょ!」
「毎晩家に持ち帰ってはガラポンを回してるんだろ!」
「実は一等、お前が当てたんだろ、どうなんだ!」
 お陰で理事長の頭は五年前から不毛の大地になっている。カツラを買おうかどうか悩んだが、いさぎよく諦めた。むしろ毎朝牛皮で磨いているくらいのものである。家族からの評判は悪かったが、頭が丸くなってからは世間の目も丸くなってくれた気がする。これで良かったのだと、ハゲた理事長は一人、こくこくと頷くのであった。
 それで、日がな一日、ガラポンと共に商店街の真ん中で待っているのだが、今年はついに誰も来ない。風が吹き始めたら冷えたので、理事長はトイレに行った。

 誰も傍にいないガラポンに、一人、歩み寄っていく少年が居た。
 その手には福引券。商店街で買い物をすればもらえる魔法の券だ。
 誰もいないので、ガラポンを回そうかどうか悩んでいる様子だったが、決心した様子で福引券をガラポンの底にかませると、取っ手を握る。

 ガラガラ ガラガラ ガラガラ

 ガラガラ ガラガラ ガラガラ

 ガラガラ ガラガラ

 ポトッ



 軽やかな音と共に落ちたのは、虹色の、宝石のような小さな玉だった。
 傍に、いつの間にか同じ年頃の女の子が立って、ガラポンの取っ手を握る男の子と、今し方落ちた虹色の玉を交互に見比べていた。
「それ、当たりかな?」
 分からない、と少年が答えると、少女は楽しそうに笑った。
「ね、ね、私、この街に引っ越してきたばかりなの。この街のこと、教えてくれないかな」
 少女と少年はちょっとだけ気恥ずかしそうに微笑みあう。
 少年は大きく、うん、と答えた。

 二人が去った後、ガラポンが乗せられていた筈の机の上には、何も乗っていなかった。金色のガラポンは跡形もなく消え去っていた。爽やかな風が吹いて、机の上に置いてあった福引券を空へと運んでいく。
 地平線の果てまで、素晴らしい青空が広がっていた。



Posted by 上の空 一助
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[短編]  thema:自作小説 - genre:小説・文学
『光ヶ丘学園高等部小説同好会 之 九』
 フミと言えば怒号である。
 そんな認識になってしまうくらい、彼らの物語のオチは、フミが怒鳴って叫んで奇声を上げて終わるようなオチばかりがついている。だが、本当の所、フミは怒ってばかりいる訳ではない。級友や知人と過ごしている間は怒るよりも、むしろ笑っている時間の方がずっと多い。
 彼女を怒らせるような面々ばかりが、小説同好会に揃っているだけのことだ。……もっと突っ込んで言えば、原因の八割は、サユリである。

 さて、今日の小説同好会部室はどうなっているだろうか。
 サユリが床に大の字になって寝ていた。顔が赤い。クースカ寝息を立てている。脇に日本酒の瓶が抱えられている。部室には誰の姿も無かった。サユリから僅かに離れて、笑いながら額に青筋を浮かべているフミを除いて。
 ホームルームが終わって、フミが教室から部室へと一番乗りだ、と思って来てみれば、先客が居たのである。全授業が終わって急いでやって来たのに、サユリは既に酒をかっくらってクースカ寝ていたのだから、もちろん、授業をサボったのだろう。
 生真面目で――ちょっと変わってはいるが――秀才の部類に入るフミからすれば、これは許せるようなことではない。授業をサボって小説を書きに来たというのなら許した。しかしサユリは酒瓶を抱いてクースカ寝ていて、オマケにフミの立つ位置からパンツが見えそうである。あられもない格好である。
 さて、ハンマーで殴ろうか、鼻に木工ボンドでも流し込んで口を塞ごうか、どうやって目覚めさせようかとフミは考えた。バイオレンスな思いつきばかりが脳裏に浮かぶ。これも、昔々からサユリに失望させ続けられたが故である。
 小説同好会を開く時の、あの頼もしかったサユリはどこに行った?
 いじめっ子を追い払ってくれた時の強いサユリはどこに行った?
「もー呑めない……呑めないって……ははふは」
 夢の中でも酒を飲んでいるらしいサユリの寝言が、小説同好会の部室に響いた。

「ちわー。オルハでございます」
 オルハが部室に来た時、既にサクラとイツカが机に座って小説を執筆していた。二人がオルハを振り返って応答する。
「あ、こんにちは、オルハちゃん」
「……イツカでございます」
 うんうん、と頷きながらオルハが部室を見回すと、床にガリバーよろしく釘とロープで縛り付けられたサユリがいた。両手首、両足首にロープをかけられ、ロープは部室の木板をぶちぬいた釘と釘の間にかけられている。目は開いているので、起きているようだ。
「……サユリ? どしたの?」
「どうしたもこうしたも……起きたらこうなってたんだ、あはは」
 酒の抜けていないサユリが、赤く頬を染めた顔で笑いながら答えた。縛り付けられたまま。
 オルハが頭を抱える。
「えーっと、なんだっけ……そう、カリバー」
「エクスカリバーだって? いやん、違うって、これはガリバー。ガリバー旅行記だよ」
 口調がいつもと違うが、これはサユリの言である。酒のせいである。
 オルハが思い出した! という風に驚く。
「ガリバーか! サユリ、いつの間にガリバーになったの?」
「いやあ、目覚めたらこうなっていたんだ。不思議だねえ。そんな日もあるよ」
「あるかもねえ」
「そうそう。あはは」
 ツッコミ役のフミが、どこに行っているのか不在なので、ボケた会話が止まらない。
「サユリ、ガリバーは楽しい?」
「楽しいけど、喉が渇いたなあ」
「ペプジ飲む?」
「飲む飲む」
 オルハは学生鞄から取り出したペプジコーラを、大の字になって寝ているサユリの口元に近づけていった。そして飲ませようと試みるが、寝ている人間に飲み物を飲ませるのは凄く難しいことをオルハは知らなかった。しかも炭酸。
「おぶ! おぶ!」
「あ、あ! 溢れる! 飲んで! 早く飲んで!」
 サユリがペプジコーラを口などからこぼして酷いことになったが、それを詳しく描写するのは可哀想なので割愛する。
 サクラちゃんが後で綺麗に拭いてくれました。

「たっだいまー」
 という声と共に部室に戻ってきたのはフミである。四百字原稿用紙と執筆用具の詰まったビニール袋を手に提げての帰還である。
 サユリの横で、同じように床に大の字になって寝ていたオルハが、頭だけ浮かせて答える。
「あ、おかえりフミ」
「フミちゃん、お帰りなさい」
「…………」
 サクラとイツカも応答する……というか、イツカは振り返って、こくんと頷いたのみである。
 フミが不満気にオルハに尋ねる。
「で、なんでオルハも寝ている訳?」
「今、エアガリバーしてるの」
 エアギターなどと同類だろうか……やたら斬新な単語がオルハの口から出てきたが、生真面目なフミに通用する筈もない。
「早く小説を書きなさい」
「え、でも。ガリバーってどんな気持ちだったんだろうなあ、って」
「いいから立ちなさい」
 フミに引っ張られて、オルハは執筆机に引き立てられた。
「オルハぁー」
 サユリがオルハに向かって悲痛な呼び声をあげると、オルハも「サユリぃー」と喋ろうとした瞬間に、フミに口を手で塞がれた。ぼそりと小声で言われる。
「いい? 今日はサユリのことは全て忘れなさい」
「え? なんで?」
「忘れるの。いいわね? いいわね?」
 大事なことだから二回言いました。
 フミの気迫に押されてオルハも頷く。
「……うん」
「そう。それでいいの」
 オルハがサユリの方をちらりと見ると、そこには哀願の目で訴えかけてくるサユリがいた。しかし、シリアスな場面を迎えたアニメの主人公よろしく、「くっ」とこらえて執筆机に向かった。
「さーてさて!」
 フミが空いている机の上に、今しがた買ってきたばかりの四百字原稿用紙などを広げる。
「切れそうだった原稿用紙も買ってきたし、注釈用の赤ペンも買ってきたわよ! サクラちゃん、これで心配しないで小説が書けるわ!」
「ありがとうフミちゃん」
「えへへ」
「一人で行かせてごめんね。短編も山場に来てたから」
「いいのいいの。素晴らしい物語が生まれる為なら何でもするわ。サクラちゃん、ファイト!」
 本当に小説の為ならばベトナム戦争にだって行きそうなフミのことである。嘘は無いだろう。
 次いで、フミはイツカの小説の様子を見に行った。そこに書かれている文字を見る。今日は珍しく、日本語で書いている。フミが覗き見た内容を途中から、以下に記す。


――テトラグラマトン。記される文字が力を持つことは本当にあるだろうか?
――あるのだ。
――聖なるかな、彼の四字を見た者は、暗く闇く空いた双眸から血の涙を流す。流れる。流れる。流れる。流れる。さて、ここで四と五の境に立つのは貴方であり、貴方は神と力とザドキエルの手に持つ書物の間で静かに、密やかに、死を緩慢に迎えながら祈りに包まれる。
――誰もが血を流しながら迎えるのだ。その時を。
――メロンパンはおいしい。
――その美味しさたるや筆舌に尽くしがたく、ヒャッハー。
――ヒャッハー? ヒャッハー!
――ヒャッハー。
――「おいマッティ、兵舎と兵士の違いってなんだ?」
――「決まっているさ、ボブ。兵舎は人を殺さねえ」
――「俺はボブじゃねえ、ティルズだ」
――「そりゃ悪かったなあHAHAHA。ところでボブ。兵士と兵隊の違いってなんだ?」
――「決まっているさ。俺が兵士で、お前が兵隊だよ」
――「どういうことだ?」
――「俺は俺の為に戦っているが、国の為に戦うお前は兵隊だ。メロンパン、お前も食うか?」
――「お前が食べているのはレッドヘリングだぜ」
――「こりゃあうっかりだ」
――暗い、暗い闇が見ている。
――私たちは緩慢に死に至ると言ったか。
――あれは嘘だ。
――私たちは緩慢に死に至るのではなく、死はすぐそこにある。
――足を一つ踏み出した先にあるのだ。
――それだというのに、死の暗い影の袂に私達が足を踏み入れぬのは何故か?
――知っているからだ。
――だからこそ、神は手招く。
――「ところでボブ。この戦争が終わったら、俺たち結婚しような」
――「えっ」
――死はすぐそこにある。
――神は見えざる手で、待ち侘びている。
――血を欲しているのだ。贖え。贖え。
――我らは贖う。数えたるは十三の日に死んだ男では足らぬ。
――一人の血で全てが救われるなどという妄言を吐く者どもこそ、血を流して河を作れ。
――我らは河となる。
――我らは河となる。
――我らは「ボブ、メロンパンはおいしいな」
――「やっぱりお前の作ったパンが一番うまかったぜ」
――所変わって、ここはエジプト。スフィンクスがブリッジを決めていた。
――
――



……まだ物語は続いていたようだが、フミはちょっと続きが読めなくなった。そもそも、これは物語なんだろうか。そんな気が全くしない、ちょっとついていけない、一般人なフミであった。二転三転どころではなく、九転直下といったところである。これはひどい。
 クラクラしてきた頭を右手で押さえながら、フミはイツカに声をかける。
「イツカ、頑張ってるみたいね。その調子で」
「…………」
 こくんとイツカが頷く。
 次の瞬間に、イツカは書いていた原稿用紙を引きちぎった。両手で。
 フミはぽかんとしている。
 イツカはその後、引きちぎった原稿用紙を木工ボンドでつなぎあわせ始めた。今まで書いていた原稿用紙も同様に。窓際にそれらを並べて乾かして、そしてフミに向き直ってこう言った。
「乾いたら完成……ボンドが」
「……あ、うん」
「……ふわあ」
 イツカが口に手を当てて欠伸をしたが、それに反応する余裕はフミには無かった。
「あ、後で読ませてもらうわ」
 イツカの奇行は今に始まったことではない。が、いつまで経っても慣れることのないフミである。
 気を取り直し、フミはサクラの調子を見に行った。すると、サクラの方から声をかけてきた。
「フミちゃん。もうすぐ完成だから、ちょっと最初の方から読んでみて。読んでもらいたいの」
「あ、そうなの? 分かったわ!」
 積み上げられた原稿用紙の山から一番下を取り出し、広げる。タイトルには、『桜の花の下』と書かれていた。


――私は待ち続けている。
――いつか来る人の為。いつまでたっても、来ないかも知れない人の為に。
――今年も、桜は静かに咲いていた。一つの花が散り、音も立てない風に運ばれていく。その花びらは、誰に届くだろうか。桜は、誰の為にその花を咲かすのか。
――私は今年も、桜の花の下で待ち続けていた。
――あの人は来ない。
――笑われるかも知れない。臆病者だと。会いに行けばいいのに、と。
――私は、それでも桜の花の下で待ち続ける。
――待つことしか出来ないのだ。
――もう、会いにはいけない。私には、できない。

――――桜の花の下にいるのだから。
――春、私は桜の枝に、花をつける。想いを咲かせる。恋の色をした花を開かせる。
――赤い血に、白い想いを込めた花を。
――私は、桜。

――風よ。
――どうか、この花びらを、あの人に届けて欲しい。
――私は、桜の花の下で、今も想い続けている。


※     ※     ※


――桜の花の下には、死体が眠っているという。
――それは何も、誰かを怖がらせる為に言われ始めたことではないのだ。
――こんなに美しい花を咲かすのは、何故だろう?
――きっと、桜の花には、人の心が通っているに違いない。
――そうでなければ、こんなに人の心を揺り動かす筈がない。
――だから、桜の花の下には、死体が眠っている。


※     ※     ※


――私は、桜。
――今年も大勢の人が私を眺めては、花びらに目を移ろわせて去っていく。
――私も幼かった頃は、そのようにして、通り過ぎる人々の一人だった。
――背が伸びて、少しだけ大人になって、恋を知り。
――そして、いつからか、桜になった。



 フミは、そこで一旦読むのを中断して、サクラに声をかけた。
「……面白いよこれ」
「あ、今、書き終わったところ」
 サクラは満面の笑顔で、やり遂げた顔をして、一つ溜め息をついた。
「読むね」
「ありがとう。読んだら、感想を聞かせてくれると嬉しいな」
「最高。いいね」
 まだ読み終わってもいないのに、そう告げてから、フミは黙々とサクラの短編に再度取り掛かった。
 誰が望んでもいないのに、不慮の偶然が重なって死に至った少女が桜の木になるまでを読み、その少女が恋をした少年との物語を読んだ。これ以上はネタバレになるので書かない。というか実際に小説同好会の話を書いている著者が書けば良さそうな気がしているのだが、まあ、なんだ、この流れで書くのは勿体無いし、何より面倒くさい。ああ、悲劇。
 そうして、話はフミがサクラの短編を読み終わったところまで飛ぶ。
「面白かったぁー!」
「え? 本当?」
 サクラが凄く嬉しそうな顔でフミに笑顔を向けてくる。
「サクラちゃん、あなた最高だよ。天使だよ。こんな甘酸っぱい話が書けるだなんて。どこでこんな恋をしてきたの?」
「やだなあ。私、男の人と話すと緊張するくらいなのに」
「え? 全部想像?」
「……さあ、どっちでしょう?」
「やだー、聞かせてよー」
「だーめ」
 うふふふふふ、と乳繰り合っている二人。フミはサクラの短編が面白かったので幸せだし、サクラは自分の作品を「面白い」と言ってもらえたことで幸せなのである。
 乳繰りワールドを展開している二人の横で、イツカが自分の作品の乾き具合を確かめていた。オルハは小説を執筆している……というのもおこがましいくらいに、漢字の量が少ない平仮名の、読書感想文に似た何かを必死に書いている。
 そして一番大事なことは、サユリが未だにガリバーよろしく、床に大の字で打ち付けられていることだった。
「……寒いぜ」
 もう酒は抜けている。上のサユリのセリフで今回の話が終われば、珍しくフミは怒号を飛ばさずに、平和にオチを迎えることが出来ただろう。
 そうはさせない。
「おーい、みんな。そろそろ私を解放しろ。なんでこんなことになってんだよ」
 サユリが手足をじたばたさせながら呼びかけた。無論、ロープと釘はしっかり打ち付けられているので解けたりはしない。
 フミは黙って無視していた。このままここで一晩、放置するつもりかも知れなかった。
 サクラがサユリを心配そうに見ながら、フミに言う。
「ねえ、サユリちゃん可哀想だよ」
「……いいの」
「酷いなあ……ね、お願い、離してあげようよ」
 そこでオルハが椅子に座ったままフミの方を向いて、こう言ってきた。
「ねえフミぃ、もうサユリと話してもいーい?」
 フミが尚も無言で渋っていると、サユリが畳み掛ける。
「なんだ? お前ら自分の意志で私の存在を無視してた訳じゃないのか? まさか気づかなかった訳じゃないよなあ。こりゃ問題だぜ! いじめを通り越して殺人だ! 今日は冷えるから翌日、私はこの部室の真ん中で綺麗なオブジェクトになって凍死している訳だ。お前らテレビの取材を受けられるぜ、やったな! 部室も綺麗に飾り付けされて最高だぜ。鬼! 羊の頭を被った悪魔!」
 サユリが愚痴々々と言わなければフミも解放する気はあったのだが、なんだか言い方がむかついたので返事をしなかった。しかしサクラとオルハがこう言ってくる。
「ね、縄をほどいてあげようよ」
「うーむ。今日、帰りにみんなでマクデナルド行こうかと思ってたんだけど」
「ね?」
「フミぃ?」
「……あーもう」
 フミも仕方がない、といった風で宣言する。
「いいわ、サユリ、解くから」
「お、やったぜ」
「でも、いい? もう二度と部室でお酒を飲まないこと……てーか未成年が飲むな!」
「分かった。今日もうっかり口に入っただけだしな」
「余計なことを言わない。もう、お酒は飲まないでね。誓う?」
「誓うぜ」
「……怪しい」
「寒いぜ」
 溜め息をつきながら、フミはサユリの縄を解き始めた。
「お前、大工になれるんじゃねーの? 全然起き上がれなかったわ」
「誰が大工にさせてるのよ!」
 思えば、サユリの騒動のせいで床に穴が空くとかは日常茶飯事で、その度に金槌を持ったフミがトンテンカンテンと毎度修繕しているのである。その内、床ではなく胃に穴が空くだろう。
 そうしてこうして、サユリはやっとガリバー状態から抜けだした。
「久しぶりの自由だ」
「三時間ぶりのね」
 フミが訂正する。
 サユリは身を竦めた。
「おお、寒い。動いてなかったから寒いぜ、野球でもするか」
「小説書きなさい」
「……はいはい」
 サユリはテキトーに頷いた。
 フミは、今度は小説を書き終わった?イツカの元へと歩み寄っていった。どうやら、あの話を一から読むらしい。健気なことだ。
 解放されたサユリにサクラが声をかけてくる。
「もう、サユリちゃんたらあんなことになるなんて……何をしたの?」
「いやあ、ちょっと酒呑んで寝てただけだぜ」
「お酒? ダメじゃない、未成年が飲んじゃ」
「酒を飲む時だけ四つ年を取るって決まりがあってね、我が家に」
 ちなみにサユリは十六歳である。小学校の頃から酒を飲んでいる。そして、別に落第をしていなければ飛び級もしていない、毎年一年ずつ学年は上がっている。
「ねーサユリ。マクデナルドで何食べる?」
 オルハがサユリに声をかけてきた。
「温かいうどんが食べたいな。おでんでも良い」
「あれ? そんなメニューが出来たんだ! 私もそれ!」
「おお、好きなだけ食べると良い」
 もちろん嘘っぱちである。サユリはしばらく、いろんなことをサクラとオルハと話していたが、サクラがやがて、自分の書いた話を読む為に席に戻り、オルハがフミに叱られないように小説の執筆に戻ると、サユリは一人になった。フミはなんとも言えない顔でイツカの小説を読んでいる。
「……寒いな」
 このままでは凍死してしまう。多分。
 サユリは懐からウィスキーの入った飯ごうみたいなアレ、スキットルを取り出した。凍死を避ける為に身体を温めるのだ。

 十分経って、フミはイツカの作品を読み終わった。いや、正確に言えば、この場で読むのを断念した。
「……イツカ、これ、持ち帰って読んでもいい?」
「…………」
 こくん、とイツカが頷く。
 そそくさとフミがファイルに原稿用紙を入れ、鞄に入れた時、視界の隅で起こっている異変に気づいた。
 サユリが執筆を続けるオルハに抱きついている。
「なあオルハぁ」
「何? サユリ」
「何カップ?」
「ナニカップって何だろう?」
「私が確かめてやろう」
 えへへへ、と言いつつオルハの制服の中にサユリは手を突っ込んだ。
 オルハがくすぐったくて笑う。
「あははは! サユリ、やめてやめて! くすぐったい」
「これはB……いや、C」
「何してんのアンタは!」
 ばちこーんと叩いてから気づいたが、フミがサユリの頭を叩く時に使った得物がイツカの短編を収めたファイルであったので、はっとしたフミがイツカに目を向けると、イツカは相も変わらず眠たそうな目でこちらを見ていた。表情は読み取れないが、慌ててフミが謝る。
「あ、ごめんごめん! つい! ごめんね!」
 その隙にオルハとサユリがくすぐり合いを始める。
「にゃはははは、くすぐったいってば、サユリ、このぉ!」
「わ、ひゃあ!」
 一見微笑ましく見えるが、サユリのとある性癖を知っているフミからすればやばい。何って、サユリは酔うと男女の見境が無い卑猥マシーンに変わるのである。
「サユリ! アンタまたお酒飲んだでしょ!」
 オルハの制服に手を突っ込んだまま、サユリが真顔で答える。
「呑んでないよ」
「顔が赤い! 飲んだでしょ! コラ! 今すぐやめなさい! 水飲みなさい!」
「うん、分かった」
 サユリは例のスキットルを取り出してラッパ飲みした。中身は四十度のウォッカである。
「あー!」とフミが絶叫するのも無理は無い。未成年がお酒を飲んではいけません。
 実力行使でフミはサユリを羽交い絞めにする。もうこれ以上暴れさせると、やばい。
「サユリ、寝なさい! 眠くなってきたでしょ、ホラ!」
「あー、なんだか眠いなあ。うふふ。本当に眠いなあ」
「じゃあ寝なさいよ!」
「うん、寝る」
 がばっと前後を入れ替えて、サユリはフミを部室の床に押し倒した。
「ぎゃー!」
「あははっ、フミやーらかーい」
「やめなさい!」
 顔にビンタをするも、酔っているサユリは麻痺しているのか、効いてない。
 はっ、と、二人は見つめ合う。
 そして間近に降りてくるサユリの唇を見て、フミは拳をグーで握った。

 おまけにお腹に膝蹴りを喰らったサユリが、腹を抱えて座り込んでいる。グーで殴った頬が真っ赤に腫れていて、蹴りを喰らったお腹を抱えて今もサユリが立ち上がれないところを見ると、フミのバイオレンス具合が分かるというものである。
 息も荒く、フミは乱れた制服を直した。
 座り込んだサユリがかすれた声で呟く。
「ちょ、マジ、痛い」
「自業自得よッ! お酒は飲まない! いいわね?」
「痛い」
 横で見ていたサクラが傷ましそうな目でサユリを見る。
「ねえ、フミちゃん。ちょっとやりすぎじゃない? 痛そうだよ」
「……あ、うん」
 サクラはサユリに近づいて、背中に手を当てる。
「大丈夫? サユリちゃん?」
「……うん……」
「大丈夫? 保健の先生呼ぼうか?」
「……いや……うん、大丈夫……サクラちゃん、優しいね」
 サユリが誰かを『ちゃん』付けで呼ぶのを聞いて、フミの腕に鳥肌が立つ。
「でも、サユリちゃんもダメだよ。お酒なんか飲むから、変になっちゃって」
「そう……ちょっと変なの」
 いいながら、サユリは近寄っていたサクラにもたれかかるようにして、えへへと呟いた。
「さーて……サクラちゃんは何カップかなぁ!」
「きゃー」
 サクラが目を瞑って可愛い悲鳴をあげる。というか、分かってて楽しんでませんか、あなた。
 サユリがサクラを押し倒そうとした瞬間、フミが再びサユリを羽交い絞めにした。
「あんたは! 少しは懲りなさい!」
「冗談なのに……もう痛くてそんなことする元気ないよ……」
「……女々しい声出さないでよ、気持ち悪い」
 サユリのぶっきらぼうな声を聞き慣れている身としては、今のサユリの状態は気持ち悪い。
 しかし、サユリに力が無いのは本当のことのようで、羽交い絞めにしているから、ぐったりとしているのが伝わってくる。
 フミはやれやれ、と言った風に溜め息をついて、サユリを解放した。途端に、ふらふらとして転びそうになるのを見て、フミはサユリに肩を貸す。
「ちょっと、しっかりしなさい」
「うん……」
「もう……」
 触れ合う肌と肌。近づく顔と顔。
 いつの間にか、むちゅっと唇を奪われていた。

 死んでいるんじゃないかと思うような感じで、サユリがなぎ倒された机に頭から突っ込んでいる。無論、思い切り振りかぶられたフミの拳で殴り飛ばされた為だ。
「あんたは、あんたは、本当に」
 バカヤロー、と小説同好会部室はおろか、旧校舎を通り越して光ヶ丘学園全体が、獣のようなフミの叫びに満たされた。

 つんつん、と、動かなくなったサユリをイツカが指でつつく。
「……うん、死んでる」
 サユリはそのまま動かなかった。後でフミが背負って家まで送り届けて、翌日の放課後には元気に部室にやってきた。
 ちなみに、フミがサユリを担いでいったので、オルハはイツカとサクラちゃんとでマクデナルドに行きました。カウンターで「うどんください!」と力強く言った瞬間、周囲に居たお客がドリンクを噴き出していた。



Posted by 上の空 一助
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[光ヶ丘学園小説同好会]  thema:自作小説 - genre:小説・文学
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